「手の内がバレる」前に整えるべき発信の土台とは
専門知識や料金をブログに書こうとして、公開ボタンの手前で止まる。理由を尋ねると、「これを出すと同業者に真似されるのでは」という答えが返ってきます。
この記事で言いたいことを先に書きます。真似されても埋もれるかどうかを決めているのは、発信する内容の独自性ではありません。事務所名やサービス内容、対応地域、顧客層といった基本情報が、公式サイトと外部の情報とで揃っているかどうかです。
たとえば相続税申告の料金体系を公開しようとしている税理士がいるとします。同業者が同じ料金表を見て、似たメニューを作ってしまったら差別化できなくなる。そう考えて、結局公開を見送る。
これが最初の思い込みです。怖いのは内容を見られることだと、多くの人が思っています。
しかし、本当に怖いのはそこでしょうか。
私はそうは思いません。怖いのは、同じ内容を発信していても、検索やAIの側からすると自分の事務所がそもそも見つかりにくい状態になっていることです。内容を隠したところで、見つかりにくさは解消されません。
ここで二つの事務所を比べてみます。どちらも同じようなノウハウを発信しているとします。一方は検索エンジンやAIに情報が一貫した形で拾われている。もう一方は情報がバラバラで、うまく拾われていない。
この二つの事務所に同業者が同じ内容を真似して発信したとします。結果はまったく違うものになります。前者は真似されても元の発信者として扱われ続けますが、後者は真似した側の情報の方が目立ってしまうことすらあります。
真似されるかどうかより先に、見られているかどうかを考える必要があります。
では、見られていないとはどういう状態なのか。
実際に相談を受けた案件で、AIがその事務所をうまく認識できていないことがありました。原因を調べてみると、情報が少ないわけではありませんでした。
公式サイトと外部サイトとで、サービスの名称や説明の仕方がずれていたのです。
公式サイトには「相続税申告サポート」と書かれている。ところが外部の紹介記事では「相続専門の税務相談」と紹介されている。人間が読めば同じサービスだとわかります。しかしAIや検索エンジンにとっては、これは別の情報として扱われてしまいます。
01揃えるべき基本情報
同じ事務所の話をしているのに、別の事務所の情報として処理される。これが、見られていない状態の正体です。
ここで思い出すのが、NAPという考え方です。Name・Address・Phone、つまり事務所名・住所・電話番号を指します。もともとは店舗の集客で使われてきた考え方ですが、税理士事務所にも同じことが言えます。
事務所名、サービス内容、対応地域、顧客層。これらを公式サイト、Googleビジネスプロフィール、SNS、外部の紹介記事で揃える。表記を一字一句同じにする必要はありません。ただ、移転前の住所が外部サイトに残っていたり、サービス名が媒体によって変わっていたりすると、実質的に違う情報として扱われてしまいます。
税理士の場合、既存クライアントの維持に時間を取られ、新規案件の獲得に悩むケースが少なくありません。この場合も、情報源が揃っていなければ、公式サイトを見た見込み客が外部の紹介記事と照合した際に、同じ事務所だと認識できず、問い合わせに至らないという事態が起こります。NAPを揃えることは、見つけてもらうための前提条件であり、士業にも同じ理屈が働きます。
情報を揃える。それだけで、検索エンジンやAIは「これは同一の事業者だ」と判定しやすくなります。逆に言えば、揃っていなければ、どれだけ良い内容を発信しても、別々の点としてしか認識されません。
真似されるかどうかを気にする前に、まず自分の事務所がどう見えているかを確認することが先決です。実際の見え方は、次のようなことを確認すればわかります。
- Googleで事務所名を検索し、出てくる複数のサイトでサービス名や住所の書き方を見比べる
- 公式サイトと外部の紹介記事を並べて、事務所名やサービス名が一致しているか確認する
- Googleビジネスプロフィールに載っている住所・電話番号が、公式サイトの最新情報と同じか確認する
- SNSのプロフィール欄に書かれた事務所名やサービス内容が、公式サイトの表現と食い違っていないか確認する
ここまで読むと、対策として記事を増やせばいいと考えたくなります。表記のずれが問題なら、正しい情報を含む記事をたくさん出せば、そのうち上書きされるのではないか。そう思うのも無理はありません。
しかし、量を増やしても表記のずれそのものは消えません。古い住所が載った外部サイトはそのまま残りますし、サービス名の食い違いもそのままです。新しい記事を10本足しても、AIからすれば、同じ事務所についての情報がまた別の形で増えただけです。一貫していない情報が増える分だけ、かえって判断材料が複雑になることすらあります。
AIに必ず表示されると約束する業者の話を聞くこともあります。ですが、表示される・引用されるという結果自体は、誰にもコントロールできません。コントロールできるのは、自分の事務所名や住所、サービス内容をどこでも同じように書く、という手元の作業だけです。結果を約束する言葉より、手元で直せることに時間を使うほうが確実です。
02どの情報を今から整えるか
では、新しく書く記事と、すでに公開してある古い記事とで、扱い方を分ける必要があるのでしょうか。
私はそうは考えていません。新しいか古いかではなく、今どの情報が引っかかっているかで見ていくべきです。
地域密着で仕事をしている税理士であれば、何を提供しているかだけでなく、どの地域で、誰に、どんなケースで選ばれてきたかという情報が一次情報になります。これを公式サイトと外部の情報とで揃えておく。そうすれば、同じノウハウを同業者が発信しても、検索やAIの上では別のものとして扱われ続けます。
では、この一次情報をどう洗い出せばよいのでしょうか。
特別な調査をする必要はありません。まず、これまでに来た問い合わせの内容を振り返ってみます。どんな地域の人から、どんな相談が来たか。次に、今契約しているクライアントの地域と業種を一通り書き出してみます。
こうして並べてみると、自分では「幅広く対応している」つもりでいても、実際に選ばれてきたのは特定の地域や特定の業種に偏っていることがよくあります。この偏りこそが、同業者には真似できない情報です。
実際に、ある地域密着型の専門家のケースを見たことがあります。発信していたノウハウ自体は、同業者であれば誰でも書けるような内容でした。ですが、その事務所がどの地域の、どんな顧客層に選ばれてきたかという情報は、公式サイトにも外部の情報にも一貫して出ていました。結果として、同じ内容を別の事務所が発信しても、検索やAI上では元の事務所の情報として扱われ続けていました。真似されていたのはノウハウの部分だけで、選ばれてきた実績の部分は真似のしようがなかったわけです。
発信を止める理由として「真似される」を挙げる人は多いですが、実際に効いているのは、真似されるかどうかではありません。自分の情報がどこかで食い違っていないか、それを確かめるところから始めることだと思います。